「血統と言われても知らない馬の名前ばかりで分からない」
「血統表の見方がまったく分からない」
「そもそも血統って必要?」
特に初心者の方にとっては、「血統」自体がよく意味の分からないものかと思います。しかし競馬においてはこの血統を知ることが重要視されています。これは予想という点でも、競馬を楽しむという点でも重要なポイントです。
そこでここでは「血統」の基本から、これだけ知っていれば最低限競馬を楽しめるという厳選情報をまとめて紹介していきましょう。
目次
血統とは
まずは「血統」について簡単に解説していきましょう。「血統」とは読んで字のごとく、その馬の両親、先祖がどのような馬であったのかを表しています。
競馬の血統は5代前までが参考となります。この5代前までの血統を表しているのが血統表というもので、この血統表がその馬の特徴を表す基準となります。
競馬はブラッドスポーツと言われている
競馬に血統は必要か?という疑問に対しては「必要です」というより「血統こそが競馬です」という回答がふさわしいでしょう。
競馬は世界的に「ブラッドスポーツ」と言われており、血統を積み重ねることでより能力の高い馬を生産し、鍛えることが主な目的となる競技です。こういった競馬という競技の本質を考えると、血統抜きで競馬を語るのはむしろ邪道。血統に注目してこその競馬ともいうことができるでしょう。
競馬において血統が重要な理由
競馬において血統が重要である理由は、そもそもの競馬という競技の本質から重要であるという以外にも、いくつか考えられます。さらにその血統を知ることで、予想に役立つこともあります。
そんな理由をいくつか紹介していきましょう。
血統は競走馬の能力に影響を与える
近年の研究によると、競走馬の能力に対する血統の影響は10~20%程度という結果が出ています。つまり血統の影響よりもその後の成長環境による影響が大きいということになります。
しかし競走馬を育てる方たちは、「この仔馬の血統はこうだから、こういう馬になるだろう」という予想の上で育成プログラムを設定します。そう考えると、副次的な部分も含めると、血統の影響は大きく、その競走馬の能力は血統に大きく影響されると考えられるでしょう。
さらにアメリカとイギリスの研究によると、競走馬に影響を与えるのは、父馬から40~45%、母馬から55~60%という結果が出ています。
血統から競走馬の能力を予想する場合、父馬よりも母馬にやや重きを置いて考えるといいでしょう。
血統によって競走馬の特徴が決まる
競馬がブラッドスポーツです。血統でその馬の特徴が決まるといっても過言ではありません。重要なのは、決まるのは特徴であった能力ではないということです。
血統により大きな影響が出るのが、「距離適性」、「馬場適正」と「気性」です。距離適性というのは、短距離のレースが得意か長距離レースが得意かというもの。ただし、血統を見て、両親が短距離馬だからといってその馬が短距離馬になるわけではないので注意が必要です。
距離適性は特に父親と母の父の影響が大きい部分であり、父や母の父の子供たちがどのような距離で活躍しているかを知ることで予想に生かすことができます。
馬場適正も同様に父と母父に影響を受けることが多く、芝が得意かダートが得意かなどがイメージできるようになります。
気性に関しては、さらに遡って見る必要があります。気性が荒い血統というものは確実に存在し、気性が荒い馬は、実力はあってもその実力をレースで出し切れないケースもあり注意が必要です。
ただしその競走馬の「能力」は血統以外の部分から予想するのがおすすめです。例えば同じような血統を持つ馬同士では、例えば芝が得意、短距離が得意などの特徴は重なる部分があっても、方やGⅠ馬、方や未勝利馬というケースもあります。
その馬の特徴を知るために、血統の知識は必要であると覚えておきましょう。
日本で重要な血統
血統の知識が必要なことは分かっても、血統に登場する馬はあまりにも多く、何をどう学べばいいのか分からないという方も多いでしょう。そこで、今の日本競馬で中心となっている血統についていくつかご紹介しましょう。
その前に2020年の種牡馬(父馬)ランキングを確認しておきましょう。
★2020年度リーディングサイヤーランキング
順位 | 種牡馬 | 出走回数 | 勝利数 | 獲得賞金 | 代表馬 |
1位 | ディープインパクト | 1,991 | 257 | 約79.5億円 | コントレイル |
2位 | ロードカナロア | 1,611 | 170 | 約42.7億円 | アーモンドアイ |
3位 | ハーツクライ | 1,416 | 131 | 約30.6億円 | サリオス |
4位 | オルフェーヴル | 1,212 | 106 | 約25.0億円 | ラッキーライラック |
5位 | キングカメハメハ | 1,030 | 101 | 約23.2億円 | チュウワウィザード |
6位 | ルーラーシップ | 1,472 | 122 | 約22.5億円 | キセキ |
7位 | ダイワメジャー | 1,128 | 90 | 約19.9億円 | レシステンシア |
8位 | キズナ | 1,050 | 111 | 約17.4億円 | マルターズディオサ |
9位 | エピファネイア | 832 | 71 | 約16.0億円 | デアリングタクト |
10位 | ヘニーヒューズ | 913 | 88 | 約14.8億円 | アランバローズ |
続いて各種牡馬の父馬と、所属する系統を確認しておきましょう。
種牡馬 | 種牡馬の父 | 系統 |
ディープインパクト | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
ロードカナロア | キングカメハメハ | ミスタープロスペクター系 |
ハーツクライ | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
オルフェーヴル | ステイゴールド | サンデーサイレンス系 |
キングカメハメハ | Kingmambo | ミスタープロスペクター系 |
ルーラーシップ | キングカメハメハ | ミスタープロスペクター系 |
ダイワメジャー | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
キズナ | ディープインパクト | サンデーサイレンス系 |
エピファネイア | シンボリクリスエス | ヘイルトゥリーズン系 |
ヘニーヒューズ | Hennessy | ノーザンダンサー系 |
エピファネイアとヘニーヒューズを除けば、サンデーサイレンスかキングカメハメハの系統の種牡馬ばかりです。つまりこの2系統が現在の日本競馬の中心となっているということ。ちなみにサンデーサイレンス系もその源流はヘイルトゥリーズン系になります。
ここではいくつかの注目すべき系統について紹介します。
サンデーサイレンス系
サンデーサイレンスはアメリカでGⅠを6勝した競走馬で、引退後日本で種牡馬として活動した名馬です。産駒デビューは1994年。翌1995年から13年連続でリーディングサイヤーを獲得した、歴史に残る名種牡馬です。
代表産駒にはディープインパクトをはじめネオユニヴァース、スペシャルウィーク、ダンスインザダーク、アドマイヤグルーヴなど枚挙に暇がなく、間違いなく現代日本競馬の礎を築いた1頭といえます。
サンデーサイレンス系には多くの活躍馬がおり、傾向をまとめるのも難しいところですが、どちらかといえばスピードタイプが多く、瞬発力に長けた産駒が目立ちます。芝の短距離から中距離が主戦場になっています。
ミスタープロスペクター系
2000年代初頭の日本競馬界はサンデーサイレンスの産駒が多数登場しました。その結果現在種牡馬になっている馬、繁殖牝馬となっている馬にもサンデーサイレンスの血が入っている馬が多く、こういったサンデーサイレンスの血を持った馬と配合する、別の血を持つ馬が求められている状況です。
そんな中、サンデーサイレンスの血を持つ馬との相性がよく、活躍しているのがミスタープロスペクター系で、その代表格がキングカメハメハです。
ちなみに日本歴代最多GⅠ勝利記録を持つアーモンドアイは父の父がキングカメハメハ、母の父がサンデーサイレンスであり、サンデーサイレンス系とミスタープロスペクター系の相性の良さを証明しています。
系統の特徴としては、芝ダート問わず、短距離に強い血統で、スピードとパワーを兼ね備えた馬が中心となります。
ノーザンダンサー系
サンデーサイレンス輸入以前の日本競馬は、ノーザンダンサー系の独壇場でした。その代表格でもあるノーザンテーストは通算10度もリーディングサイヤーに輝いています。実はサンデーサイレンスが輸入されたのは、「ノーザンダンサー系の繁殖牝馬と相性がいい」というのが最大の理由でした。
産駒の傾向はダートよりも芝、中距離が主な活躍の場で、スピードとスタミナに長けた産駒が目立ちます。
血統としてはやや古い血統となっていますが、現在中心となっているサンデーサイレンス系との相性がいいということは覚えておきましょう。
血統を予想に使う時に見るポイント
競馬の血統について学びだすと、相当多くの知識が必要となり、長い時間が必要です。しかし競馬の予想に生かすということであれば、そこまで真剣に勉強をする必要はありません。
ここでは、実際に予想をする際に、血統をどのように生かすか、どのようなポイントに注目するかを確認しておきましょう。
注目は父馬と母父馬
競馬の予想に血統を活用する場合、まずは「父馬」と「母父馬」に注目しましょう。これで父馬の系統と、母馬の系統を知ることができます。
競馬新聞や競馬サイトに掲載される馬柱には、必ず血統情報が掲載されています。上の画像は、人気競馬情報サイト『netkeiba』に掲載された、2020年ジャパンカップのアーモンドアイの馬柱です。
馬名の上にある「ロードカナロア」が父馬、馬名の下にある「フサイチパンドラ」が母馬です。さらに母馬の下に()内に書かれている「サンデーサイレンス」が母父馬ということになります。
アーモンドアイはロードカナロア(ミスタープロスペクター系)とサンデーサイレンス系をかけ合わせた競走馬であることが分かります。上でも触れたとおり、この2系統は相性がよいということが分かります。
系統ごとの印象を知る
血統同士の相性と同時に、各系統の傾向もある程度知っておきましょう。代表的な系統は上で触れましたので、多くの馬はイメージできるかと思います。サンデーサイレンス系とミスタープロスペクター系の組み合わせであれば、スピードがあり、瞬発力はあるものの、長い距離はあまり向いていないなどイメージがしやすいかと思います。
父馬や母父馬に見覚えがなくてもイメージできるように、簡単な傾向をまとめておきます。表記がアルファベットの場合海外で活躍した馬になります。海外の馬の場合は主に3種類の特徴を覚えておきましょう。
ヨーロッパ系の種牡馬の場合、スピードよりもスタミナとパワーに長けており、短距離よりも中長距離に強い馬が多くなります。
アメリカ系の種牡馬の場合、アメリカではダート競馬が中心なので、ダート競馬に強い、パワーとスピードを持つ馬が中心になります。
オセアニア系は、比較的日本に近い高速馬場が多いため、芝のスピードタイプが多くなります。
こういった印象を知るだけでも、予想の一助になりますので、レースを見ながらいろいろと系統のイメージを持っておくといいでしょう。
血統表の見方
競走馬の血統を表す血統表は主に5代前までの血統が掲載されます。簡易的な血統表の場合、母馬(牝馬)を割愛し、牡馬の名前だけを記しているケースもあります。この血統表の見方を簡単に解説しておきましょう。
血統表は一番左が1代前、つまり両親ということになり、右にいくごとに一代ずつ遡っていきます。
この画像の場合、赤の枠内が両親、黄色の枠内は祖父母、緑の枠内が3代前、青の枠内が4代前、紫の枠内が5代前ということになります。
インブリードの表記と特徴
競走馬は優秀な血をかけ合わせて生産されます。その競走馬の血統を5代前まで遡ると、中には同じ馬名が登場するケースがあります。こういった配合を「インブリード」といいます。
インブリードということはある程度近い血をかけ合わせていることになり、そのメリットはその血の強さを増大させることです。
上の画像は2020年牝馬三冠を達成したデアリングタクトの血統表です。この血統表で赤文字になっている部分に注目。デアリングタクトには3つのインブリードがあることが分かります。
サンデーサイレンスの4×3
ヘイルトゥリーズンの5×5
ノーザンダンサーの5×5
インブリードの表記は何代前にその血があるかで表記されます。ちなみにこのデアリングタクトの持つ4×3(もしくは3×4)という血量は、「奇跡の血量」と呼ばれており、オルフェーヴルなど多くの名馬が持っていたインブリードとなります。
インブリードのデメリットは、その血のいい部分だけではなく、悪い部分も増大させるという点と、体が弱くなる可能性があることです。
例えば気性に問題のある血を増大させれば、気性難の馬となり、実力を発揮できなくなる可能性があります。また血が近いということは丈夫さという点で問題が生じることがあり、強くても競走馬としては短命といったケースも少なくありません。
アウトブリードの表記と特徴
アウトブリードは競走馬の血統としては中心的なもので、過去5代前までに、同じ血がない配合のことをいいます。
血が近いという問題がないため、健康面に問題がない馬が多く、両親双方が持つ特徴がうまくリンクすれば、丈夫で強い馬が誕生する可能性がある配合といえます。
上は歴代最強クラスとも言われているディープインパクトの血統表。完全なアウトブリードであることが分かります。
アウトブリードのデメリットは、両親の血がうまくかみ合わないと、爆発力のない馬が誕生する可能性があること。とはいえ多くの競走馬はアウトブリードですので、あまりデメリットは気にしなくていいでしょう。
2021年に期待の血統
競馬はブラッドスポーツであり、血統は年々進化していきます。そういった面では2021年も注目の血統があります。
特に注目したいのが新種牡馬です。2021年に産駒がデビューする新種牡馬から、注目の3頭をご紹介しましょう。
キタサンブラック
現役時代は菊花賞をはじめGⅠを7勝した名馬の産駒が今年デビューを迎えます。キタサンブラック自体は、どちらかというと中長距離戦を得意としていましたが、血統自体はかなり短距離のスピードタイプに偏った血統になっています。
キタサンブラックの父ブラックタイドは、ディープインパクトの全兄。まったく同じ血統です。母父にスピード自慢のサクラバクシンオーがおり、リファールのインブリードなどを考えても、スピード血統であることは間違いありません。
両親は2歳戦から活躍した血統ですので、産駒は比較的早くから活躍する可能性があります。2021年7月18日にはすでに産駒(コナブラック)が勝ち上がっており、今後も目が離せない種牡馬といえるでしょう。
ドレフォン
現役時代はアメリカでGⅠ2勝したスピード馬で、今年から産駒が日本でデビューします。父系にノーザンダンサー系とミスタープロスペクター系が入っており、母系にもディピュティーミニスターが入っていることから、明らかにダート寄りのスピード馬といったイメージです。
血の構成からもサンデーサイレンス系と相性がよさそうな血統であり、サンデーサイレンス系の牝馬との配合馬に注目したい新種牡馬です。
イスラボニータ
イスラボニータは早期デビューから2014年の皐月賞を勝利、ダービーでも2着した早熟のスピード馬です。とはいえ古馬になってからもマイル戦線を中心に天皇賞・秋3着、マイルチャンピオンシップ2着など長く活躍を続けました。
血統を見ると、父はサンデーサイレンス系のフジキセキ、母系にはミスタープロスペクター系の血が入っています。2021年7月27日現在すでに2頭が勝ち上がっており、産駒にも早熟の血は受け継がれているようです。
本馬は芝のマイルを中心としたスピード馬でしたが、フジキセキの産駒にはカネヒキリなどダートで強さを見せる馬も多く、この血を受け継ぐ馬が登場すればダートのスターホースが誕生する可能性もあります。
血統は関係ないと考える人もいる
競走馬の能力と血統は一切関係ないという考え方も存在します。上で紹介したキタサンブラックの父、ブラックタイドは、あのディープインパクトとまったく同じ血統ですが、生涯22戦3勝、重賞勝利は3歳時のスプリングSのみで引退しました。
さらに遡ると、皐月賞、ダービーで2着、菊花賞を勝利し、その後天皇賞・春と宝塚記念を勝った名馬ビワハヤヒデ。その半弟(父が違う)のナリタブライアンは牡馬三冠に加え有馬記念を勝利しています。この優秀な兄弟には、ナリタブライアンとまったく同じ血統のビワタケヒデという弟がいました。このビワタケヒデは生涯11戦3勝、重賞未勝利で引退しています。
このように同じ血統でも成績が大きく違う以上、血統を考えることは無意味という意見はあっても当然でしょう。血統とは競走馬の能力をはかる指標の一つであり、血統のみがその競走馬の能力を決めることはないのは事実です。
しかし、最初にも書きましたが「能力」を大きく左右することはなくとも、「特徴」は似通るのも事実です。ダートで強い、短距離で強い、気性が荒い、重馬場が苦手などなど。血統とはその馬の特徴を知るための知識で、さらに能力を決める要素の一つであると考えておきましょう。
まとめ
競馬がブラッドスポーツである以上、競馬と血統は切っても切れない関係であるのは間違いありません。そして何より、競馬を楽しむのであれば、血統に関しても基本的な知識を持っていた方がより楽しめます。
血統に関する面白い話をひとつ。2011年に牡馬クラシック三冠を制し、凱旋門賞でも2年連続2着と世界的に活躍した名馬オルフェーヴル。強さは超一流でしたが、同時にゲートを嫌う、レース中にとんでもない方向に走る(逸走。2012年の阪神大賞典)など気性の面で大きな問題を持っていた個性的な馬でした。
もう1頭、2010年の皐月賞と菊花賞を制し、古馬になっても天皇賞・春や有馬記念などを制したゴールドシップ。こちらもGⅠ5勝と圧倒的な強さを見せた馬ですが、スタートでは必ずというほど出遅れて、後方からまくる戦法を得意とした、やはり気性面では問題児でした。
この2頭、ともに父はステイゴールド、そして母の父がメジロマックイーンという非常に似た血統構成を持っています。競馬の常識を覆すような強さを持ちながら、気性面で大きな問題を持っているという非常によく似た特徴は、この血統のせいかもしれません。
このように血統を知っているだけでも競馬を楽しく見ることができます。血統は少しずつでもいいので、系統ごとの特徴と、系統同士の相性などを知っておくとより楽しめますので、このあたりを意識するといいでしょう。